招待講演一覧
セッション>相対論>招待講演一覧重力波と『逆問題』 | |
分科会: 相対論 8月4日9:00-10:00 | 講師: 浅田 秀樹 (弘前大学) |
アインシュタインによる一般相対性理論が誕生してから間もなく100周年を迎える現在、多くの天文学的観測や物理実験によりその理論が検証されてきた。いまや、一般相対性理論は、宇宙論のみならず、いくつかの高精度の天文観測とは切り離す事ができない。
まず、一般相対性理論の古典的なテスト(重力レンズ、近日点移動、 シャピロの時間の遅れ)に関する簡単なレビューを行なう。 その後,重力波天文学に関する話題を議論する。日本においてもLCGT(大型の重力波望遠鏡)の予算がついに認められ、天文学コミュニティに限らず一般社会からも重力波への注目が高まっている。 理論家の立場から、標準的なアプローチ(仮定したモデルに基づく波形の計算)のみならず、逆問題のアプローチ(波形のみから源の推定)を提案する予定。観測から源の状態が推定可能かどうか、もし可能なら源をいかに同定するのか、という問題は「逆問題」とよばれる。逆問題で有名なのが、数学者カッツの「太鼓の形が聞こえるか?」のタイトルの論文。彼は発せられる音波から太鼓の形状が決定できることを証明した。重力波天文学でも、発せられる重力波から波源を推定する「逆問題」が設定可能であろう。これに関する研究は始まったばかりである。簡単なケーススタディとして、3天体系からの重力波を題材として取り上げたい。 これらを通して,若手大学院生に対して「研究テーマ探し」に関する何らかのヒントが与えられればと願う。 参考文献: 一般相対性理論の検証に関するレビュー: Will, Living Reviews (2006) 重力波と3天体系に関して: Torigoe et al. Phys. Rev. Lett, 102, 251101 (2009) HA. Phys.Rev.D80, 064021 (2009) |
セッション>相対論>招待講演一覧
ブレーン重力:何が面白くて、何がまだわかっていないのか? | |
分科会: 相対論 8月4日17:45-18:45 | 講師: 田中 貴浩 (京都大学) |
ブレーン重力は相対論の分野で、最近10年の間、盛んに研究されてきた研究テーマのひとつです。現状ではおおよそのことが理解されて、空前のブームは一段落したという感がありますが、それではいったいどの程度ブレーン宇宙に対する我々の理解は進んだのでしょうか?ブレーン重力と一口に言っても様々なブレーン宇宙のモデルがあり、それぞれに多様性があります。とはいうものの、本質的な部分は比較的単純です。まず、余剰次元がコンパクトなために、Kalza-Klein reductionが可能で、かつ、mass gapが十分に大きな場合には、低エネルギーの有効理論を考えるだけで十分です。低エネルギーの有効理論が、4次元一般相対論からどのように修正された重力理論になるのかを見定めれば、モデルの重力的な性質をほぼ理解したと言えるでしょう。スピン2の重力場に加え、それを修飾するような別の場が加わったようなものになることが一般に予想されます。このようなモデルは研究の歴史も長く多くのことが既に理解されています。一方で、こうした単純な描像が当てはまらない一群のモデルがあります。余剰次元がコンパクトでないブレーン宇宙モデルです。このようなモデルの典型であるRandall-SundrumモデルやDvali-Gabadadze-Porratiモデルは、今や多くの人が知るところです。しかし、このようなモデルが提案された当初は、この類のモデルが存在し、観測的には強く制限されていないということは大きな驚きでした。このようなモデルにおける重力の振る舞いはあまり自明ではありませんが、4次元の重力に非常に近い性質を示すことが明らかになってきたわけです。そこで、これらのモデルにおける重力理論が4次元の一般相対論とどのように違っていて、実際区別が可能なのかどうかという点に関心が向けられていったわけです。これまでの研究の進展と、残された課題について議論します。 |
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弦理論とブレーンインフレーション | |
分科会: 宇宙論 8月3日9:00-10:00 | 講師: 向山 信治 (東京大学) |
宇宙では、様々なスケールの物理現象が互いに影響を及ぼしながら絶えず起こっています。その中でも、最も壮大なスケールの物理を対象とするのが宇宙論であり、最も基本的な最小スケールの物理が素粒子物理そして超弦理論であると言えると思います。重要なことは、この両極端の物理は繋がらなければならない、ということです。生まれたばかりの宇宙は超高エネルギーの極限的状態にあるため、ミクロの物理が本質的になるからです。弦理論的宇宙論は、最小スケールの物理を記述する超弦理論を用いて宇宙論の謎に迫る試みであり、近年急速に発展している分野です。本講演では、弦理論宇宙論の中でも、特にブレーンインフレーションを中心にお話をしたいと思います。 |
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重力レンズと観測的宇宙論 | |
分科会: 宇宙論 8月5日9:15-10:15 | 講師: 二間瀬 敏史 (東北大学) |
修士課程の学生を念頭に重力レンズを使った観測的宇宙論について、基礎的な事柄から始めて最近の話題までふれる。 |
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宇宙線の加速源と加速機構 | |
分科会: 宇宙線 8月2日17:30-18:30 | 講師: 寺沢 敏夫 (東京大学) |
V. F. Hessにより宇宙線が発見されてから約100年が経過した。銀河内の宇宙線のenergeticsから、宇宙線起源を超新星爆発に求めるアイデアは1930年代のW. Baade、F. Zwickyに遡るが、彼らは具体的な宇宙線加速のメカニズムを解明したわけではなかった。1970年代末に提案され、その後30年余を経て確立した現在の通説によれば、10^15 eV程度以下の宇宙線粒子は天の川銀河内の超新星爆風前面の衝撃波統計加速機構により生成される。ただし、超新星衝撃波の時間発展を考慮して標準理論を厳密に適用すると、到達エネルギーは10^14 eVどまりで、観測の説明に1-2桁足りないという「エネルギー危機」があった。到達エネルギーは磁場強度に比例するので、加速された宇宙線粒子自身による磁場増幅(Bell機構)を考えてこの「危機」を解消しようとするのが現今の宇宙線理論業界のはやりとなっている。
他方、極高エネルギー宇宙線、すなわち〜10^19 eV以上のエネルギーを持つ宇宙線粒子は銀河系外に起源を持つことは間違いない。極高エネルギー宇宙線の加速源の候補天体として考察されてきたのはガンマ線バースト(GRB=Gamma Ray Bursts)や、活動銀河核(AGN=Active Galactic Nuclei)から放出されたジェットが作る相対論的衝撃波、そして、銀河団内の衝撃波などであり、いずれも何らかの衝撃波の関与が必須であると考えられている。 講演では、上に述べたような多彩な側面を持つ衝撃波加速研究について、そのエッセンスを紹介したい。 |
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XMASS実験 -神岡地下1000mにおける暗黒物質の直接探索- | |
分科会: 宇宙線 8月4日13:30-14:30 | 講師: 平出 克樹 (東京大学) |
現在、宇宙の質量のうち約72%が暗黒エネルギー、約23%が暗黒物質、約5%がバリオンであると予言されている。暗黒物質の解明は宇宙物理学の最重要課題の一つであり、世界中で数多くの探索実験が行われている。XMASS実験は、神岡鉱山の地下1000mにおける液体キセノンを用いた低バックグラウンドの宇宙素粒子検出実験であり、現在建設中の800kg検出器では、暗黒物質の直接探索を中心に行う。
本講演では、世界の暗黒物質探索実験の現状にもふれながら、XMASS実験における暗黒物質の直接探索について詳しく述べる。 |
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Ia型超新星 ー観測と理論の最前線ー | |
分科会: コンパクトオブジェクト 8月2日15:00-16:00 | 講師: 田中 雅臣 (東京大学) |
Ia型超新星は宇宙における巨大な核爆発である。われわれの銀河に目を向けると、ティコの超新星など多数の超新星残骸が存在し、銀河系外では毎年数100もの新たなIa型超新星が発見されている。Ia型超新星に関する研究は多岐にわたり、爆発そのものの物理や爆発に至る恒星進化だけでなく、遠方宇宙における距離指標としての役割や、宇宙の化学的進化への影響などが広く精力的に研究されている。 本講演では、Ia型超新星の物理とその宇宙における役割を、観測的、理論的双方の視点からレビューする。まず、超新星と超新星残骸のX線から可視光、電波にわたる観測を紹介し、そこから分かってきたIa型超新星爆発の全体像をまとめる。また、それらの観測事実が現在どれほど理論的に理解されているかを紹介し、未解決の問題を提示したい。 分科会のテーマである観測と理論の相互作用だけでなく、波長間の連携、超新星と超新星残骸研究の連携を強調したい。 |
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X線観測でわかるブラックホールの物理 | |
分科会: コンパクト 8月3日11:45-12:45 | 講師: 磯部 直樹 (京都大学) |
ブラックホール(BH)天体とその降着円盤に関する、最近の観測的および理論的研究の進展には、目覚しいものがある。銀河系内のBHはそのX線スペクトルに基づき、いくつかの状態に分類できる。古典的には、PL型スペクトルを示すLow/Hard状態と降着円盤からの多温度黒体輻射が優勢なHigh/Soft状態と呼ばれるふたつの状態を示すことが広く知られていた。一方最近の観測では、特にX線光度がエディントン限界に近づくと、系内BHはVery High状態やSlim Disk状態といった新たなスペクトル状態を示すことがあきらかになってきた。そして、これらの状態の発見に刺激され、超臨界降着流に関する理論的研究が大きな発展をとげた。
今回の講演では、これらの系内BHのスペクトル状態の観測的特徴をわかりやすく紹介する。また、それぞれのスペクトル状態の物理的解釈と、そこからわかるBHの物理量について解説する。 さらに系内BHの状態変化の応用として、近傍銀河にしばしば発見される超光度X線源の正体に関する論争について紹介する。超光度X線の正体については、中質量BHかそれとも超臨界降着の恒星質量BHなのか激しい議論が行われており、その決着には理論と観測の融合が必須である。 |
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ブラックホール降着円盤の理論 | |
分科会: コンパクト 8月5日11:30-12:30 | 講師: 大須賀 健 (国立天文台/総合研究大学院大学) |
ブラックホールは、一般相対論によって理論的に予言され、20世紀後半になってようやくその存在が確認された天体である。ブラックホールの周囲には降着円盤と呼ばれる回転ガス円盤が存在する。ブラックホールの重力に引きつけられたガスが、ブラックホールの周囲を回転しながら徐々に吸い込まれるためである。ガスが吸い込まれる際に重力エネルギーが解放され、円盤は明るく輝きつつ超高速なガス噴出流(ジェット)を作り出す。ブラックホール降着円盤は宇宙で最も効率のよいエンジンである。したがって、活動銀河中心核やX線連星、ガンマ線バーストといった高エネルギー天体現象の起源と考えられている。
降着円盤研究の歴史は1970年代に幕を開けた。上記のような高エネルギー天体現象は星のエネルギー(即ち核反応)では到底説明できないため、ブラックホール降着円盤にその答えを求めたのである。提唱された1次元モデル(標準円盤モデルなど)は、大筋で観測データを説明することに成功した。しかしながら、1次元モデルは物理的根拠に乏しい現象論的モデルを幾つも導入して構築されている。角運動量輸送問題には立ち入らず、乱流や対流といった多次元流体効果、磁場や放射輸送の効果なども正しく扱っていない。また、ジェットの発生についても説明できない。これでは本当に問題を解決したとは言えない。 物理素過程を正しく扱い、第一原理から降着円盤を理解するための理論的研究にはスーパーコンピュータによる計算が必須であり、近年活発になりつつある。私も挑戦している。現象論的モデルから理論的研究へ発展、そしてついに問題解決という流れは、まさに星の構造の研究が経たプロセスである。つまり、降着円盤の研究は問題解決に向かって今後急速に発展する分野と言えよう。 講演では降着円盤の基礎から最新の話題など、降着円盤に関係する(もしくは関係しない)様々な話題を提供します。 |
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銀河中心に潜む超巨大ブラックホール形成はどこまで分かったのか? | |
分科会: 銀河・銀河団 8月2日16:30-17:30 | 講師: 川勝 望 (筑波大学) |
ハッブル宇宙望遠鏡や電波干渉計を始めとする近年の高分解能観測により、銀河の中心には太陽質量の100万倍から10億倍もの超巨大ブラックホールが普遍的に存在することが明らかになってきた。さらに、超巨大ブラックホール質量は銀河円盤の質量ではなく、銀河バルジの質量に比例し、その0.1%程度になっていることが報告されている。これは、超巨大ブラックホールの形成が銀河バルジの形成と密接に関係していることを示唆しており、超巨大ブラックホール形成理論を考える上で、ブレークスルーとなる観測的成果である。しかしながら、その形成メカニズムは未だ謎に包まれており、宇宙物理学における最重要テーマの一つである。
超巨大ブラックホール形成理論として、ガス降着で成長するシナリオと、ブラックホール同士の合体で成長するシナリオが提唱されている。いずれのシナリオにしろ、超巨大ブラックホール形成の難しさは、銀河中心の十分コンパクトな領域に質量を多量に集中させる必要があるところにある。ガス降着シナリオに関する先行研究の多くは、銀河を覆うような大きなスケールでの角運動量輸送過程に注目しつつも、銀河中心へ掃き集められたガスの辿る運命については、ほとんど明らかにされていなかった。そこで、我々は、銀河中心で起こる超新星爆発によって駆動される乱流粘性による角運動量輸送に注目し、銀河スケールからブラックホール近傍までの質量降着過程を統一的に調べた。 本講演では、ガス降着シナリオに沿った超巨大ブラックホール研究の現状と問題点を紹介した上で、最新の研究成果から明らかになった多階層モデル構築の重要性、および次世代観測装置への期待について述べる。 |
セッション>銀河・銀河団>招待講演一覧
サブミリ波深宇宙探査のいま・未来 | |
分科会: 銀河・銀河団 8月3日15:30-16:30 | 講師: 田村 陽一 (国立天文台) |
いまから400年前、ガリレオの一本のちいさな可視光望遠鏡に始まった宇宙観測。30年前の電荷結合素子(CCD)カメラ、そして 10年前の8 mクラスの大型可視光望遠鏡の登場により、いまや私たちは、ビッグバン後8億年に満たない時代(赤方偏移z = 7--8, 現在の宇宙年齢の8%未満の時代)に生まれた天体までもとらえることに成功している。しかし、もっとも感度の高い可視光望遠鏡をもってしても、私たちは宇宙の長い歴史に存在する形成期の銀河のすべてを観測することができていない。それもそのはず、形成期の銀河に多数存在するはずの誕生直後の大質量星は、巨大分子雲と呼ばれる分子ガスと塵の厚い「繭」に包まれているからだ。
サブミリ波は、この銀河の繭の検出にすぐれている。大質量星が放射する紫外線・可視光により暖められた塵が、こんどはより長い波長 (数百μm)をもつ遠赤外線で莫大なエネルギーを放出しはじめる。爆発的な星形成とともに誕生する銀河の遠赤外線光度は、ときに私たちの天の川銀河の1000倍 (太陽光度の10^13倍) 以上におよぶこともある。これが宇宙膨張にともなうドップラー効果で波長が伸び(赤方偏移して)、サブミリ波で明るく輝くのだ。 サブミリ波による初の深宇宙探査から十余年、この間サブミリ波でしか見えないこうした銀河の発見が相次いだ。これらはサブミリ波銀河と呼ばれ、高赤方偏移の宇宙でもっとも激しく星を生み出す大質量の銀河種族と信じられるようになった。一方、最近では、原始銀河団やクェーサーなど、空間スケールのいちじるしく異なる天体現象とサブミリ波銀河の関係を示す観測的証拠が報告されはじめている。本講演では、サブミリ波による遠方宇宙探査の現在までの到達点を俯瞰し、そしてALMAが運用を開始する今後、私たちが取り組むべき課題はなにかをおさらいする。 いよいよ動きだすALMA。皆さん準備はいかがですか? |
セッション>銀河・銀河団>招待講演一覧
高エネルギー天体としての銀河団 | |
分科会: 銀河・銀河団 8月4日16:30-17:30 | 講師: 藤田 裕 (大阪大学) |
銀河団はその名の通り銀河の集団であり、歴史的は可視光の観測がまず行われて、構成銀河の性質が明らかにされた。ところが近年になり、より波長の短いX線で銀河団を観測したところ、予想に反し銀河団を包む高温ガス(〜10^8 K)から強いX線が放射されていることが明らかになった。このガスは銀河団ガスと呼ばれる。本講演では以下のような銀河団ガスの未解決問題に焦点を当てる。
銀河団ガスはX線を放出しているのでエネルギーを失っているのではあるが、平均的には密度がとても小さいので、エネルギーの損失(冷却)はとても小さく、宇宙の年齢(137億年)の時間をかけても冷却はほとんど無視できる。一方中心部(コア)は密度が高く、冷却が無視できない。そのため冷却で圧力が低下するコアは、周囲の領域のガスからの圧力を支えきれなくなり、ガスがコアに向かって冷えながら流れ込むようになるはずである。これを cooling flow と呼び、ガスの流れこむ割合は一年間に100から1000太陽質量にもなると見積もられた。ところが不思議なことに、観測では流れ込んだはずのガスが見つからないのである。この問題は cooling flow 問題と呼ばれる。 一方、銀河団ガスからはX線のみならず、電波も放射されていることが分かっている。この電波放射の源は、光速に近い速度を持った電子(高エネルギー電子)であると考えられている。こういった電子が銀河団ガスの中に存在する磁力線の周りを回転するときに電波が出るのである(シンクロトロン放射)。高エネルギー電子の存在より、銀河団も地球上の加速器と同様に粒子を光速に近い速さまで加速していると考えられている。つまり宇宙で一番大きい天体である銀河団は、宇宙で一番大きい加速器なのであるが、具体的な加速メカニズムはよく分かっていない。 |
セッション>太陽・恒星>招待講演一覧
太陽研究と恒星研究の接点でこれから面白くなる研究テーマ | |
分科会: 太陽・恒星 8月3日18:00-19:00 | 講師: 磯部 洋明 (京都大学) |
現代の太陽研究の大部分を占めるのは、黒点、フレアなどの磁場とプラズマの相互作用に起因する様々な動的活動現象の研究である。磁気プラズマの活動現象は、恒星、降着円盤、銀河中心、中性子星磁気圏など様々な天体で普遍的に発見されている。詳細な観測が可能な太陽活動現象の研究は、様々な天体における活動現象とその根底にある磁気プラズマの物理過程を理解するための基礎である。
また、太陽の磁気活動は高エネルギー粒子や太陽風、コロナ質量放出などを通して地球周辺の宇宙空間と人類の活動にも大きな影響を与える。このため近年は「宇宙天気予報」という実用的な側面からも研究が進められているが、太陽と地球の関係は即ち恒星と惑星の関係であり、太陽と類似の恒星の磁気活動は、近年続々と見つかりつつある系外惑星系における生命活動にとっても大きな影響を与えうるものである。従って実用的な側面が強い「宇宙天気」の研究は、そのまま系外惑星の磁気圏、大気環境や宇宙生物学といった天文学のフロンティアにつながる研究でもある。 太陽研究と他の天体研究の関係は、太陽研究の成果を応用するばかりではない。例えば太陽物理学の最大の課題であるダイナモ(磁場の起源)やコロナ加熱の問題は、太陽と異なる様々なパラメータを持つ恒星を調べることで新しい知見を得ることができると期待される。 本講演では、太陽研究と恒星・他の天体の研究の相補的な側面に焦点を当て、今後5年から10年でどのような研究テーマが面白くなりそうかということを中心に紹介する。 |
セッション>太陽・恒星>招待講演一覧
X線/ガンマ線連星系における星周物質と高密度星の相互作用 | |
分科会: 太陽・恒星 8月4日14:30-15:30 | 講師: 岡崎 敦男 (北海学園大学) |
高密度星を伴星に持つ連星系は、主星のタイプにより様々な相互作用/活動性を示す。質量降着の機構一つを取り上げても、Roche lobe overflowによるもの(低質量X連連星など)、星周円盤からの質量輸送によるもの[Be/X線連星(Be星と呼ばれる星周円盤を持つ早期型星を主星に持つ系)]、恒星風によるもの(超巨星X線連星)などがある。また、後二者(いずれも大質量X線連星)では軌道が円軌道から大きくずれている場合が多く、相互作用に位相依存性が見られる。加えて、星周円盤を持つ系では、円盤と軌道面の傾きも相互作用を複雑にする要素である。さらに、高密度星が電波パルサーである場合には、パルサー風と星周物質の相互作用を考えなければならない。系の活動性を理解するには、これらの要素/個性が相互作用に与える影響を調べる必要がある。それは一般に複雑な作業であるが、最近の計算機パワーの増大と高エネルギー観測の進展により、そのような作業が可能になりつつある。
本講演では、高密度星、特に中性子星とブラックホール、を持つ連星系における星周物質と高密度星の相互作用について考察する。前半はX線連星における相互作用を考える。低質量X線連星についてはすでに多くの教科書やレビューが書かれているので簡単に触れるにとどめ、ここでは主に大質量X線連星、特にBe/X線連星とSupergiant Fast X-ray transientsを取り上げ、観測的特徴とモデル化の試みを紹介する。後半は、超高エネルギーガンマ線連星という新しいグループの天体について、観測的特徴とモデル(衝突恒星風モデルとマイクロクェーサーモデル)の比較を行う。 |
セッション>星間現象>招待講演一覧
星の誕生と化学進化 | |
分科会: 星間現象 8月2日14:00-15:00 | 講師: 坂井 南美 (東京大学) |
We found low-mass star forming-regions which show extremely high abundances of carbon-chain molecules. Those are L1527 in Taurus and IRAS15398-3359 in Lupus (e.g. Sakai et al. 2008a; 2009a). This discovery was surprising, because carbon-chain molecules are generally deficient in star-forming regions. Single-dish observations toward L1527 reveal that C4H is distributed over the 40” scale around the protostar, and the C4H line shows apparent line broadening toward the protostar. In IRAS15398-3359, high excitation lines of CCH show central condensation around the protostar. In these sources, carbon-chain molecules would be regenerated in a lukewarm region near the protostar, triggered by the evaporation of the CH4 ice from grain mantles. This is new carbon-chain chemistry (Warm Carbon-Chain Chemistry: WCCC) in contrast to the conventional one which has long been applied to cold starless cores.
The discovery of the WCCC sources demonstrates that the chemical composition of low-mass star-forming regions is not uniform, but has a significant variety. In particular, a remarkable contrast can be seen between WCCC and hot corino chemistry. Carbon-chain molecules are deficient in hot corino sources like NGC1333IRAS4B, whereas complex organic molecules seem to be less abundant in the WCCC sources. A possible origin for this would be the time scale of the starless-core phase; a shorter contraction time would result in WCCC. Relatively low deuterium fractionation ratios in L1527 also support this scenario. Thus, the chemical composition provides an important clue to explore the source-to-source variation of star-formation processes, which will be a good target for ALMA. |
セッション>星間現象>招待講演一覧
天の川銀河内の拡散X線放射 | |
分科会: 星間現象 8月3日10:00-11:00 | 講師: 山内 茂雄 (奈良女子大学) |
私たちの住む天の川銀河の銀河中心、銀河円盤、銀河バルジ領域に観測装置の分解能では個々の天体に分解することのできない拡がったX線放射が存在していることが知られている。X線スペクトルの解析より、これが数千万度の温度を持つ光学的に薄いプラズマガスからの放射であることが明らかにされている。このような高温ガスの存在とその起源は、星間物質の進化、銀河系のダイナミクスにも関わる重要な問題であるが、発見以来25年以上が経過した今もその起源については解決していない。もし真に拡がった放射であるとすると、その全エネルギーは超新星爆発1-10万個にも相当する莫大なものとなる上、銀河系の重力では束縛しておくことができないくらいの高温のため、常にエネルギーの供給が必要となる。一方、多くの暗い天体が担っていると考えると、それは強い鉄の特性X線を含む数千万度の高温ガスからの放射スペクトルを持ち、天の川銀河内に高い空間密度で存在している天体でなくてはならないが、それはどんな天体かわかっていない。このようにdiffuse説、点源説のいずれにも課題がある。講演では観測結果をもとに、diffuse説、点源説のそれぞれを紹介し、今後の展望についても考察する。 |
セッション>惑星系>招待講演一覧
じっとしてない惑星と5分で眠れる天体力学 | |
分科会: 惑星系 8月3日11:30-12:30 | 講師: 長沢 真樹子 (東京工業大学) |
惑星は移動するらしい.軌道上を公転してるという意味じゃなくて.どうも軌道が移動してしまうらしい.そんなことがこの20年ほど業界で取り沙汰されてい る. 移動って・・・ どこへ?ーーー誰も知らない.たぶん星の方向に向かって.ひょっとしたら,逆の方向へ.あるいはでたらめに. どうして?ーーー思い思いの理由で. いつ?ーーーいつかその時が来たら. ほんと?ーーー動く惑星がいるのはホント.でも,ウソな惑星もいるだろう.皆で考えてほしい. この講演では,太陽系外の惑星発見により大きく進展した惑星形成論のうち惑星の移動について概説する.惑星形成は原始惑星系円盤内で始まる.天体が成長するにつれ,円盤と惑星は相互作用するようになり,これは多くの場合惑星にとって抵抗のように機能す る.惑星同士も重力相互作用し,円盤との相互作用と相まって,ケプラー回転とは異なる天体の運動が引き起こされる.これらの現象により,多くの天体は形成 された場所から大なり小なり移動していると考えられる.天体力学的見地から以下のような内容について考えていく. 1.古典的惑星形成論の基礎・・・円盤から惑星まで 2.惑星の軌道・・・天体力学的内容は5分以内で解説 2.1 太陽系の場合・・・軌道でみる太陽系の構造 2.2 系外惑星の場合・・・系外惑星のびっくり軌道 3.惑星形成の現代的描象・・・いろいろな移動 3.1 微小天体の軌道変化・・・とにかく落ちる話.院試前には聞きたくない 3.2 Type I 移動・・・やっぱり落ちる話 3.3 Type II 移動・・・まだまだ落ちる話 3.4 Type III 移動・・・落ちるの反対は落ちないではない 3.5 散乱による移動・・・短周期惑星,遠方惑星.飛ぶ話.眠気は飛ばない 4.惑星の移動は乗り越えるべきか・・・まとめ |
セッション>惑星系>招待講演一覧
地球は一つ? -宇宙に輝く様々な星- | |
分科会: 惑星系 8月3日17:30-18:30 | 講師: 大朝 由美子 (埼玉大学) |
「地球のほかにも、宇宙のどこかに生命は存在するのでしょうか?」
もし、地球によく似た惑星があるならば、そこに生命が存在する可能性は高くなります。現在まで、恒星とその周りを公転する惑星系は500に迫る数が見つかっていますが、その多くが私たちの太陽系とは似ていません。一方で、木星の数倍から数十倍程度の質量を持ち、恒星や惑星になれなかった天体である、褐色矮星や単独惑星質量天体も数百ほど存在することがわかってきています。 では、私たちの地球は唯一無二の存在なのでしょうか? 本講演では、宇宙に存在する「星」の種類や頻度分布(初期質量関数)、形成過程についてをメインに、太陽系外惑星探査観測、そして近い将来行われる地球に似た惑星の探査計画などについて紹介する予定です。 |
セッション>観測機器>招待講演一覧
太陽系外惑星の直接撮像と新コロナグラフ装置HiCIAOの開発及び初期成果 | |
分科会: 観測機器 8月4日9:45-10:45 | 講師: 田村 元秀 (国立天文台/総合研究大学院大学) |
恒星を回る惑星を遠方から見分けるためには、高解像度・高感度に加えて高コントラスト、すなわち、明るい恒星の近くの暗い天体を見分ける能力が必要となる。そのため、太陽系の外にある惑星(=系外惑星)の直接観測は難しく、初期にはアストロメトリのような、惑星が主星に及ぼす影響を捉える間接的観測、つまり、主星に着目した観測だけが可能であった。なかでも、速度ふらつきを捉えるドップラー法は、高分散分光器の速度決定精度の改善が進み、1995年の51 Peg bの発見で開花した。惑星による掩蔽を捉えるトランジット法は、手法としては高精度高分散分光よりもはるかに容易だが、ようやく2000年に成功した。 2010年は、ケプラー衛星のようなスペースからの成果が出始め、系外惑星探査をリードし始めた。マイクロレンズ法も含めてこれらの間接的手法は検出惑星数の多寡はあるものの、互いに相補的で、多様な系外惑星の姿を暴くにはいずれも必要である。このような中で、直接観測は、惑星検出だけでなくその性質を解明する上で重要であるが、なかなか確たる例が見つからなかった。
そのような中で、2008年には3つのA型星を回る惑星候補が、2009年にはG型星を回る惑星候補が直接に撮像された。とくに後者は、新たに開発されたコロナグラフHiCIAOをすばる望遠鏡に取り付けて得られた成果である。これらは2005年頃に報告された惑星質量天体よりも主星に近く(100AU以 下)、より太陽系に近い姿を持つ。しかし、その軌道は土星・天王星よりも遠く、木星の約10倍もの巨大惑星が遠方でどのように形成されたか、あるいは、移動したかは説明できていない。それを解く鍵となるのは、同じ距離にある原始惑星系円盤の詳細構造の解明にあると考えている。 本講演では、このような直接観測の現状を説明しつつ、新コロナグラフHiCIAOの開発・特徴、さらに初期成果を紹介する。 |
セッション>観測機器>招待講演一覧
ASTRO-H衛星と搭載X線CCDカメラSXI 〜X線撮像検出器の過去、現在、未来〜 | |
分科会: 観測機器 8月5日10:15-11:15 | 講師: 林田 清 (大阪大学) |
ASTRO-Hは、2013年度打ち上げ予定の次期X線天文衛星である。ASTRO-Hには世界最高のエネルギー分解能をもったX線検出器と、X線からガンマ線にいたる広いエネルギーをカバーする複数の検出器が搭載され、銀河団高温ガスの運動測定、隠れたブラックホールの探査などを通して、宇宙の構造進化、極限状態の物理の解明をめざす。本講演ではまずASTRO-H衛星ミッション全体を紹介し、そのあと、搭載検出器のひとつであるSoft X-ray Imager (SXI)に関して詳しく説明する。
SXIは軟X線望遠鏡の焦点面に設置するCCDカメラで、4素子のPch-BI(裏面照射型)-CCDで6.2cm角の撮像面をカバーする。従来のCCD素子に比べて厚い200ミクロンの空乏層厚で高エネルギー帯域での高い検出効率を確保する。CCDカメラの動作にはアナログ、デジタルの回路系と、冷却機構が必須である。SXIは特に専用のアナログIC(ASIC)を利用して小型の読み出し回路を実現している。これらの仕組みに関しても紹介する。 X線反射望遠鏡とCCDカメラを組み合わせたX線撮像スペクトロメータは、日本が1993年に打ち上げたあすか衛星で初めて実現したシステムである。その後のChandra, XMM-Newton, Suzakuでもより発展した形でCCDカメラが搭載されている。CCDカメラはおよそ20年にわたってX線撮像検出器の標準となっている。CCDカメラ開発の一方で、次世代のX線撮像検出器の開発もはじまっている。本講演では、これまでの衛星のX線撮像検出器を(衛星搭載機器開発の一端も含めて)概観するとともに、新たな動きに関しても紹介したい。 |